『ちびまる子ちゃん』と私とさくらももこ

私が初めてマンガを読んだのは、小学一年生の頃。

たいした病気ではなかったが、入院するレベルの腹痛が理由で、

1〜2週間程病院で過ごした事がありました。

その時に祖母がお見舞いに少女漫画の雑誌、

りぼんを持ってきてくれたのがきっかけです。

そこからマンガを読むという習慣がつき、

特にりぼんは毎月自分のお小遣いの中から小銭をかき集め、

近所の商店にうきうきで買いに行き、

一度読み終わっても次の号が出るまで1カ月何度も読み返し、

付録を組み立て、眺めて、使い倒し、月一の大きな楽しみとなっていました。

そんなりぼんを中心に活躍した、私の好きな漫画家の1人がさくらももこさんです。

とても有名な方なので、今さらではありますが、一応簡単に紹介すると、

さくらももこさんは漫画家でエッセイスト、作詞や脚本の仕事もされていました。

代表作は言わずとしれた「ちびまる子ちゃん」、「コジコジ」等です。

さくらさんの作風は、

あまり作品を読んだ事のない方にとっては、絵柄のイメージもあって、

可愛らしくてほのぼのとした物を思い浮かべる方も多いかもしれません。

ですが、それだけではなく

シニカルで、シュールで、ブラックで、ナンセンスで不謹慎なギャグ。

その両面が魅力で、大好きなところです。

私は、さくらさんが漫画家デビューをした 1984年生まれで、

ちびまる子ちゃんの連載が開始されたのが1986年です。

アニメ放送が始まったのは1990年。

この時私は早生まれだったので小学一年生でした。

まんがとアニメの両方でほぼ同時期に私はちびまる子ちゃんに出会うのです。

「ちびまる子ちゃん」は昭和40年代のさくらさんの故郷、

静岡県清水市(現在の静岡市清水区)を舞台に、

さくらさんの幼少期の体験を元にしたエッセイ風のまんがです。

ちびまる子ちゃんは小学3年生。

この設定はサザエさんなどと同じで

作品の中でキャラクターが歳をとる事はありません。

連載が長期に渡り、次第に創作の部分が多くなっていきますが、

作品の初期は特にさくらさんご自身のリアルな幼少期の体験が描かれています。

さくらももこさんは1965年生まれで、私とは20歳近く年齢差がありましたが、

小学校や子供目線での家庭内のあるあるネタは、

それほどジェネレーションギャップを感じる事は無く、

私はもちろん、全国の多くの子供達に刺さったと思います。

そして何より、

小さくて平凡で怠け者で動物とお絵描きとマンガが好きで

勉強とマラソン大会が嫌いな主人公に、

私は強烈な親近感を覚えました。

ドラえもんののび太や、あさりちゃん、

サザエさんのカツオにも近いものは感じますが、

私にドラえもんはいないし、あさりちゃんの様にスポーツ万能でもないし、

カツオほど頭の回転が早いわけではありません。

こんなにも身近に感じる国民的主人公は

後にも先にもちびまる子ちゃんしか知りません。

本当に普通の女の子なのです。

今年の春に、長年ちびまる子ちゃんの声を演じられた

声優のTARAKOさんの訃報を聞いた時には、

小学校からの仲の良い友人を失ったような、喪失感でした。

さくらさももこさんは最初からエッセイ漫画、

ギャグ漫画を描いていたわけではありません。

漫画家を目指して投稿を始めた最初の頃の絵柄は、

目をキラキラさせ、ストーリーも正統派の少女漫画を描いていたそうです。

しかしそれでは入選することができず、

同じ時期に投稿していた「天使なんかじゃない」や「ご近所物語」等で有名な

絵の上手な矢沢あいさんと比べて落ち込んでいた様です。

もう漫画家は諦めて、落語家にでもなろうかと、進路に迷っていたある日、

学校で作文のテストが行われます。

テーマは「わたしの好きな言葉」でした。

おもしろおかしく書いてしまえ と、いいかげんにとりくんだこのテストが、

思わぬ高評価を博します。

作文を採点した先生からは

書き流したエッセイ調の文体が高校生の書いたものとは思えない。

 清少納言が現代に来て書いたようだ

と評されたそうです。

その事がきっかけで絵柄もこの頃流行っていたというへたうま路線に変え、

内容もエッセイ漫画に転向すると、入選し始め、短大生になった1年後に

教えてやるんだ ありがたく思え!」で漫画家デビューをします。

こちらは昭和の学校にいた様々なタイプの先生達の事を描いた、

オムニバス形式の読み切りです。

生徒にすぐバカと言う先生やわけも無く嫌われている先生、

答案用紙に必ずツバをつけて返す先生など、

癖の強い学校の先生達のあるあるネタを、

それぞれちゃんとオチをつけておもしろおかしく描いています。

このデビュー作はちびまる子ちゃんの単行本1巻に収録されています。

少女漫画雑誌でこの様な絵柄、内容でデビューをさせた

当時のりぼん編集部のふところの大きさを感じます。

ちなみにりぼんでは、この一年前には

お父さんは心配症」「こいつら100%伝説」などで知られる

岡田あーみんさんもデビューしています。

岡田さんの作風は、

さくらさんをも上回るテンションの高い強烈なナンセンスギャグの連続で、

当時りぼんを読んでいた少女たちにトラウマに近いほどの衝撃を与えます。

さくらさんと並んで幼少期の私に大きな影響を与えた大好きな漫画家です。

岡田さんとさくらさんは当時非常に仲が良く、

同時期にデビューし、意気投合したのは運命的な物を感じます。

2人の担当編集者が同じだったこともあり、合作を描いた事もあります。

お父さんは心配症のお父さん、佐々木光太郎とまるちゃんがデパートに行き、

ドタバタ展開が繰り広げられるというりぼんの中でも

異色な作品のキャラクター同士が夢の共演を果たした傑作です。

この合作はちびまる子ちゃんの2巻とお父さんは心配症の4巻に

それぞれ収録されていて、

一緒に合作をかいた時のエピソードと

お互いの印象を描いたおまけまんがも載っています。

岡田さんの方は、残念ながら1997年以降は活動をしておらず、

完全に漫画家は引退されています。

さくらさんの小学生時代をもとに描かれたちびまる子ちゃんですが、

現実と違う部分ももちろん多くあります。

あくまで、エッセイ風まんがなのです。

さくらさんによると、ちびまる子ちゃんには、 

よくいそうな架空の人物”が登場したり、

事実のデフォルメ、物語としての架空のエピソードも含まれていて、

それらを思い出のフィルターを通して仕上げているので、

実際の体験を含む物語”  

と、なっているそうです。

まんがと現実とのギャップの中でも1番有名なのが

まるちゃんと仲良しのおじいちゃん、

さくら友蔵の存在です。

ちびまる子ちゃんの中で描かれるおじいちゃんはとても優しくて、

何があってもまるちゃんの味方で、大の仲良しです。

一方、現実のさくらさんのおじいさんはというと、さくらさんは初のエッセイ本、

もものかんづめ」の中で、

私は爺さんの事は好きでなかったと、はっきり書いています。

他にも、おじいさんについては、

ズルくてイジワルで怠け者で、母も私も姉も散々な目に遭った。

だから、当然私達も爺さんに対して何の思い入れもなかった。

と、記しています。

エッセイの中ではもう少し具体的にお祖父さんの嫌なところを書いていましたが、

なるほど と思ってしまう内容ばかりでした。

そのため、この本ではお祖父さんが亡くなった時のエピソードが書いているのですが、

亡くなった時の死に顔を見てお姉さんと爆笑してしまったり、

身内の不幸の話だと言うのにとても冷めていて、

不謹慎ながら読んでいるこちらも笑わずにはいられません。

私がこの本を初めて読んだのは、まだ小学生の時だったので、

ちびまる子ちゃんであんなに優しくて楽しいおじいちゃんが、

実際には意地悪で家族から嫌われていたという事実に

大きなショックを受けるのですが、

文章を読むとやっぱり笑ってしまうので、

その事実と自分の感情にとても困惑し、戸惑った記憶があります。

さくらさんは、ちびまる子ちゃんの中に出てくるおじいちゃんのことは好きだったようで、

漫画の中のおじいちゃんが、まるちゃんをかわいがるのは、

さくらさんの憧れと理想、そしてまるちゃんへの想い入れが混じったもの

だそうです。

これは、ちびまる子ちゃんという作品全体の事も表しているのではと思います。

さくらさんはエッセイ本も多く出ていて、とても読みやすく、

文章だけで漫画と同じくらい笑わせてくれます。

そして、ちびまる子ちゃんと並んで人気なのが「コジコジ」です。

コジコジはある日、さくらさんの落書きから産まれました。

さくらさんはコジコジを大事に育て、

1994年にソニーマガジンズから出版された

きみとぼく」という雑誌で連載が始まり、

1997年にはアニメ化もされました。

メルヘンの国が舞台で、絵柄は絵本の様に細かく可愛らしく、

内容はちびまる子ちゃんよりもさらに

ナンセンスでシュールな世界観が濃厚な作品です。

私の田舎では残念ながらコジコジのアニメは放送されていなかったので、

アニメの方はあまり見た事がありませんでしたが、

今ではYouTubeの公式コジコジチャンネルで見ることができます。

独特な世界観に、熱狂的なファンも多い作品です。

他にも、「神のちから」や、「永沢君」、

ちびしかくちゃん」、「まんが倶楽部」などは、

「ちびまる子ちゃん」や「コジコジ」の様なアニメ化され、

子ども向けにマイルドになった作品よりも、

さくらさんの根底にある少し意地悪で、

わけのわからない世界がさらに表立って表現されています。

特に「神のちから」はその真骨頂を見せてくれます。

さくらさんのダークな部分の濃度が濃過ぎるので、

ちびまる子ちゃんでの作風のイメージのままで読んでしまうと、

ついていけない人もいるかもしれません。

私の妹も幼少期、「神のちから」は訳がわからず怖かったそうです。

今回、さくらももこさんへの想いを文字に起こしながら、

改めて私はさくらさんの世界が大好きだなと実感しました。

さくらさんの作品は、かわいらしくてほのぼのとしていて、

嫌な思い出も憧れや理想で素敵なものに変換し、

時には人生のみじめさ、なさけなさを皮肉たっぷりに笑いにして、

場合によっては読者も置いてきぼりにしつつ、

くだらないものを愛する楽しさや、独特の人生観などを教えてくれる。

そんな魅力が詰まったものばかりです。

さくらももこさんの作品を読んだ事がなくて興味が出た方、

久しぶりに読んでみたくなった方は、

とりあえずちびまる子ちゃんかコジコジから読んでみてはいかがでしょうか。

さくらさんの作品は途中の巻から読んでも最後まで読み切らなくても、

大きな問題はありません。

疲れた時や、とりあえず笑いたい時に気軽に読めるのでおすすめです。

ただし、どの作品も爆笑必至なので電車等、

公共の場所で読む場合には注意が必要です。

マスクの着用をおすすめします。

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